11/11/10●楽天がなんとカナダの電子書籍「Kobo」を買収。その成算と背景 印刷

楽天は11月9日、電子書籍事業を運営するカナダのKoboを完全子会社化することを目的とした同社の株式取得について、臨時取締役会において決議したことを発表した。買収額は236億円。

  Koboは2009年の設立で、カナダ、米国、英国、フランス、ドイツなどで電子書籍事業を展開し、独自の端末「Kobo eReader」も販売している。「Kobo eReader」は、アプリを通じてiOS、Android、BlackBerry、Windows、 Macなどからもダウンロードでき、多様なデバイスに対応したオープンな電子書籍提供モデルを展開している。

 すでに楽天は、8月に電子書籍ストア「Raboo」を開設して、電子書籍ビジネスに参入しているが、この買収で、その事業は一気に海外展開できるうえ、日本市場でも優位に立てる可能性が強くなった。

  「Kobo eReder」は、じきに日本市場に投入されるだろうが、3タイプのうちの一番安い「Kobo eReader Touch Edition」(Kobo Touch)は、現在、99.99ドルで北米で売られている。この価格が日本でも実現すれば、価格的にも競争力を持つ。また、「Raboo」はソニーの「Reader」とも相互接続を果たしている。

   

  Koboはアマゾンと違って、独自フォーマットではない。EPUBを採用しているので、日本語の縦書き表示もすぐにできるようになるだろう。さらに、アマゾンが「Kindle」で、各国、各地域ごとに版権契約を結んでいるのに対し、Koboは初めから全世界的な契約をめざすことでスタートしている。

  こう見ると、今回の買収で楽天は、独自ブランドの電子書籍端末を持つだけでなく、日本のコンテンツの海外展開も見込みながら、海外の出版社や権利者も囲い込み、世界で電子書籍ビジネスを展開できることになる。

  そこで、「これはいい買い物をした」と、多くの業界関係者は言うが、はたして本当なのだろうか? 北米圏で、そこそこの実績を残し、さらに全世界展開する点でアマゾンより優位になるアドバンテージを持っているというのに、なぜ、Koboは楽天の子会社になるのだろうか?

  Koboは、当初、北米市場では、米国の書店チェーン第2位のボーダーズ・グループと提携し、本格参入を果たしていた。しかし、その後ボーダーズが倒産・精算となったため、現在はボーダーズの既存ユーザーを引き継いでいる。またこの8月からは米国内のベストバイの店舗でリーダー端末の販売が開始されている。欧州市場でもドイツやフランス、英国などで端末の販売および電子書籍ストアの開店を果たしている。これらの事業は順調で、「業績的には順調に伸びている」と伝えられる。

  

  アナリストに言わせると「たしかにKoboは順調に伸びてきた。しかし、今後もそうかは誰にもわからない。Koboはアジア圏でも、とくに中国語市場にはかなりの興味を示し、日本市場にも興味を持っていた。しかし、まだ足がかりさえできていない。そこで、高く売れるうちに、楽天の誘いに乗ってのでは?」と言う。

 端末による電子書籍ビジネスは、北米では順調に発展してきたが、その約7割をアマゾンが押さえている。ITビジネスでは、いったんできあがってしまった寡占市場を崩すのは難しいとされる。

 Koboの経営陣と投資家(株主)が、この辺をどう判断したかは、情報がないので、いまのところなんとも言えない。