メディアの未来[007]「朝日新聞が赤字決算!」「ブックオフの株を大手出版社が収得」などから見えてくるプリントメディア崩壊の加速化 印刷

 

 この連載ブログを書き始めた頃は、「まだそこまでは」と、多少は楽観視していたが、最近の状況を見ると、プリントメディアの崩壊現象はどんどん加速化している。このままだと、早晩、多くのメディアが経営危機を迎えるだろう。
 というか、すでに経営危機は深刻化しており、体力のない地方紙や中小出版社のなかには、今年いっぱい持たないところも出るはずだ。

 こんなことを書いている私が勤務している光文社も、いまは危機的状況にある。光文社は前期は約23億円という赤字を計上し、以後コストカットを進めてきているものの、今期は前期以上の赤字を出すのが確実になっている。
 あまり詳しくは書けないが、すでに社員の給料は5%カットが決まり、ボーナスも例年の半分以下になった。

 

「社員1人が1億円売り上げ」ないと出版社はもたない



 光文社はかつて売り上げ400億円を超えていたが、去年は283億円と、最盛期に比べたら100億円以上も落ち込んだ。そして今年は、おそらく250億円台まで、売り上げを落とすのは間違いない状況にある。

 出版社は一般的に「社員1人が1億円売り上げ」ていれば、経営は健全とされてきた。しかし、いま、それができる会社はほとんどない。
 光文社の場合、社員数は300人を超えているから、売り上げが250億円では、早晩行き詰まるのは間違いない。

 じつは、このような事態がいずれ訪れることは、かなり前から明らかだった。出版界の売り上げがピークだったのは、1996年。すでに13年も前のことである。以来、出版界はずるずると売り上げを落とし続けてきた。
 したがって、この傾向が好転しないと判断した時点で、なんらかの打開策を打つべきだったのだ。

 ところが、どこの社も、思い切った手を打ってこなかった。デジタル化は進行していたのだから、その波に乗ってビジネスモデルを変えるなど、いくらでも打つ手はあったはずだ。
 いまさら、こんなことを書いても仕方がないが、プリントメディアはなくならないと、タカをくくってきたツケが来たとしか言いようがない。

講談社も大幅な売り上げ減で、ボーナスダウン

 光文社の親会社の講談社も、前期は76億円という創業以来の大幅な赤字を計上した。講談社も最盛期は2200億円の売り上げがあった会社である。それが去年は1400億円を切るまでになり、今年は、このままだとさらに売り上げを落とすのが確実な状況にある。

 講談社の業績は、第1四半期を終えた時点ですでに18億円の赤字となっており、このままだと、今期は前期を上回る赤字を出しかねない。

 講談社では、これまで前期のボーナスは3.7カ月という会社と組合との紳士協定があった。しかし、今回はこれがあっさりと破られ、2.96カ月+激励金3万円で妥結した。
「こんなご時世で、ボーナスが出るだけマシ」という声もあるが、社員のショックは大きい。
 それやこれで、先週、緊急社員総会が開かれ、野間副社長が社員の前で「非常事態」を改めて訴えた。



あの朝日新聞も、広告激減で初の最終赤字に転落!



 しかし、苦しいのは出版界だけではない。新聞社の経営も、かなり前から危機に瀕していると言われてきた。産經新聞や毎日新聞はそのたびに名前が上がったが、なんと、今期は、朝日新聞まで赤字転落してしまった。

 2009年5月23日、「朝日新聞が初の最終赤字転落」というニュースが各紙に載った。以下、その内容を要約する。

《朝日新聞社が22日発表した2009年3月期連結決算は、景気後退による大幅な広告収入の落ち込みが響き、純損益が前期の46億円の黒字から139億円の赤字に転落した。経常損益も222億円の黒字から3億円の赤字。同社が純損失と経常損失を計上したのは、連結決算の公表を始めた2000年3月期以来、初めてのこと》

 朝日新聞の今期の売上高は、5372億円。前期比6.2%減で、これで4年連続の減収である。
 朝日がこれだから、日経を除いてほかの新聞社はほとんどが減収減益であり、今回の世界同時不況による企業広告費の大幅削減が、業績を悪化させる大きな原因となっている。



広告大手の電通と博報堂DYホールディングスも赤字



 しかし、この不況がなくても、新聞や出版というプリントメディアは、毎年確実に売り上げを落としてきている。だから、業績不振を不況のせいにすることはできない。

 広告不況を裏付けるように、広告大手の電通と博報堂DYホールディングスも、2009年3月期連結決算で、ともに初の純損失となった。
 5月14日発表された博報堂DYホールディングスの連結決算は、売上高が前期比7.6%減の1兆333億円。営業利益は40.0%減の150億円で、純損益は32億円の赤字(前期は100億円の黒字)だった。
 電通も純損益は204億円の赤字(前期は362億円の黒字)である。

 ただ、広告代理店の売り上げの落ち込みでいちばん大きいのが、新聞広告である。新聞の売上高は、約2割減って、媒体別の落ち込み幅で最大である。また、雑誌広告も大幅に落ち込んでいる。
 これでは、プリントメディアは持ちこたえられない。



雄鶏社の倒産と主婦の友社の大日本印刷への身売り



 こうした雪崩のような崩壊現象をさらに記しておくと、まず挙げられるのが、老舗出版社の雄鶏社の倒産だ。雄鶏社は、4月17日、東京地裁に自己破産を申請した。負債総額は12億8000万円。

 雄鶏社は、手芸、編み物、料理、刺繍など、実用書では定評のある出版社で、1985のピーク時には年間売上高40億円があったが、最近では半分の20億円に落ち込んでいたという。

 続いては、やはり老舗の主婦の友社である。主婦の友社は、女性誌をいち早く中国進出させたりして、かなり大胆な改善策を試みてきたが、業績は上向かず、去年は看板雑誌の『主婦の友』を廃刊していた。
 そして、とうとう、大日本印刷の支援を受けることになり、5月8日に、大日本印刷が主婦の友社の株式の39%取得を発表した。

 この2つの会社の出来事が象徴するのは、もはや、出版では業績を挽回できないということだ。プリントメディアはというのは、もはや過去のビジネスモデルだということである。
 ただ、主婦の友は、『ef』のデジタル版など、かなりデジタル化も進めていたが、それでもダメだった。前にもこのブログで書いたが、雑誌をデジタル化しても解決にはならないのだ。

 ところで、大日本印刷は、ここのところ、書店大手の丸善やジュンク堂書店、図書館向け書籍販売の図書流通センターを相次いで買収してきている。これに、主婦の友も加えたということは、プリントパブリッシングの川上から川下までを押さえるということになる。
 これがなにを意味するかは不明だが、それでも、プリントメディアにはないデジタル技術を蓄積してきているだけに、将来的にコンテンツを押さえる重要性を認識しているのは間違いない。



なぜ、出版社大手3社はブックオフの株を取得したのか?



 さて、3番目は、この大日本印刷と出版社大手3社がブックオフの株を取得したというニュースだ。
 2009年5月13日、大日本印刷と講談社、小学館、集英社の大手出版3社は、中古本販売チェーンを展開するブックオフコーポレーションの株式約31%(議決権ベース)を取得すると発表した。
 それで、「狙いはマンガの利益回収か」と、各紙は書いた。

 確かに、その指摘は間違ってはいない。ブックオフがマンガを二次流通させたおかげで、これまで大手出版社のドル箱だったマンガは大幅に売り上げを落としてきたからだ。

 ブックオフに関しては、1、新刊書店と出版社の利益を大幅に侵している 2、著作者に利益還元がなされていない―という2つの問題が、これまでまったく解決されずにきた。
 出版社側は、ブックオフ側と、文化庁や経済産業省も交えて、これまで何度も話し合いを重ねてきた。
 しかし、結局は、二次流通を止めることはできなかったからだ。

 というのは、ブックオフ側が主張する「譲渡権」は、法律的に守られているからである。簡単に言うと、著作権法でも、本を買った場合、その購入者は著者に断りなく、誰に売ってもいいことになっている。
 これは、世界共通のことで、文化庁はこれを変えることはできないという見解だった。



箝口令を引いてきたのにNHKにすっぱ抜かれる



 だからというわけではないが、大手出版社連合は、ブックオフの株がファンドから売りに出ていたので、これを収得する交渉を水面下で重ねてきたのだった。株収得で、ブックオフ経営陣からの譲歩を引き出す。これが、今回の株収得の狙いだ。
 ただ、マンガもデジタル配信に急速に移行しているから、こうした対策はデフェンス(守り)にしかならない。
 マンガの凋落については稿を改めるが、ブックオフというビジネスモデルももはや時代遅れになっている。これは、ビデオやDVDの二次流通市場を見れば明らかだろう。

 さて、このブックオフ問題には、1つの禍根が残った。というのは、この株収得は極秘にされ、各社は箝口令を引いてきた。というのは、事前に明らかになるとインサイダー取引問題が起こるからだ。
 そこで、発表は5月13日午後4時、日本雑誌協会でと、設定されていた。
 ところが、この朝7時のNHKニュースで、流れてしまったのである。その結果、ブックオフの株価は、この日一気に上昇した。いったい誰がNHKに流したかは、いまだに不明だ。



地方紙の崩壊は、アメリカを見ればもはや止められない


 話を変えて、最近、私は地方新聞の人たちと接し、地方紙の経営が悪化しているという話をくり返し聞かされた。中央以上に、地方の広告の落ち込みは激しいという。
 そして、これに部数減が加速しいているので、もはや、地方紙は廃刊するところがぞくぞく出てくる可能性があるというのだ。

 新聞に関して言うと、すでに、アメリカでは完全に崩壊している。ニューヨーク・タイムズ社が本社ビルを売る時代なのだ。日本がまだ持ちこたえているのが、不思議なくらいである。
 その『ニューヨーク・タイムズ』は、今年の3月に、「地元日刊紙を持たない都市が近く出現するのではないか」という記事を載せているのだから、まったく皮肉というしかない。
 この記事では、「主要紙のない初めての都市がどこになるかはわからない。しかし、その候補になっている所は全米にある」と、なんと地図付きで、各州の消えつつある地方新聞を名指しているのだ。

 すでにアメリカでは、続々と地方新聞が廃刊されている。ワシントン州シアトルの『シアトル・ポストインテリジェンサー』、アリゾナ州の『トゥーソン・シチズン』、コロラド州デンバーの『ロッキーマウンテン・ニュース』がなくなった。
 これが日本の明日の姿であるのは、間違いないだろう。

 はたして、今年いっぱいで、どれだけの出版社、新聞社が姿を消すだろうか? プリントメディアというビジネスモデルは、完全崩壊に向かっていると言っても過言ではないと思う。