2017年4月4日●新刊『隠れ増税』(青春新書、青春出版社)発売 印刷
作者 junpay   
2017年 4月 01日(土曜日) 03:42
 本書は私にとって2冊目の税金に関する本です。1冊目は、2014年に出した『増税の正体』(文春新書)という本で、このときは消費税の増税(5%8%)を控えての出版でした。

 しかし、今回は、表立った増税の動きはありません。安倍内閣は消費税の再増税を201910月まで延期してしまったからです。ただし、政府(官僚)は、水面下で確実に増税路線を推進しています。そんななか、前回の消費税増税時以上に、日本の財政と経済は悪化しているのです。

 こうした現実を踏まえ、この国の税金がどうなっているのか? を徹底的に優しく解き明かしています。

■以下、本書の目次です

第1章            「消費税10%」は通過点にすぎない

第2章            給与所得者は惜しみなく奪われる

第3章            超・重税国家へのロードマップ

第4章            すでに破綻している「年金」という税

第5章            強化されつつある富裕層包囲網

第6章            住宅ローンと固定資産税のワナ

第7章            こんなに過酷な日本の所得税と相続税

第8章            サラリーマンにも節税策はある

第9章            「インフレ税」で吹き飛ぶ資産

 

https://www.amazon.co.jp/dp/4413045114

■以下、本書の「はじめに」全文です 

 最近の日本は「日本スゴイ」であふれています。本もテレビも日本礼賛企画の洪水で、繰り返し、繰り返し、「日本はこんなところがスゴイ」と叫び続けています。

 ついこの間までは、テレビに外国人が登場しても、日本をあまりほめませんでした。ひと昔前、『ここがへんだよ、日本人』(19982002TBS系列)という人気番組がありましたが、この番組では外国人が日本のおかしな点を指摘すればするほど視聴率が上がりました。ところが、最近はまったく逆です。外国人を集めた番組では、「日本のここがスゴイ」ということを言わないと、外国人は出番がなくなりました。

 

 そこで、私はあえて問いかけます。日本はそんなにスゴイのでしょうか?

 もし、私が「日本のどこがスゴイと思いますか?」と聞かれたら、以下のように答えるでしょう。なぜなら、本当にこの点だけは、日本は世界でも稀に見るスゴイ国だと思うからです。

「日本は世界でも断トツの借金国家です。そのため、近年、税金がどんどん上がり、世界でも有数の重税国家になりました。

 現在、この国に暮らしているだけで、信じぐらいないくらい高い税金を取られます。しかし、ほとんどの日本人は、文句一つ言いません。真面目にせっせと納税しています。こんなスゴイ国は世界にないと思います」

 

 これは冗談と言えば冗談です。しかし、単なる冗談とはとても言えないでしょう。もちろん、私は皮肉をこめて言っているのですが、日本が「世界でも有数の重税国家」であるというのは事実です。ところが、このことを多くの日本人が認識していないのです。「日本は重税国家」「税金が高すぎる」と言うと、「?」という方が多いのです。

 私には信じられないことです。

 

 たとえば、重税国家というと、収入の半分以上を税金で持っていかれる北欧の国々、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークなどを挙げる方がいますが、これらの国々はいずれも高福祉国家です。したがって、重税といっても「重税感」はあまりありません。その分、国民は十分な行政サービスを受けているからです。

 ところが、日本はこれらの国々に匹敵するくらいの重税国家にもかかわらず、それに見合った行政サービスを受けられないのです。

 

 最近、奨学金破産が問題になっています。日本の高等教育(大学)の学費は、一般家庭の子女が通うには高すぎるからです。そのため、大学生の約半分が奨学金をもらって大学に行っていますが、卒業後に就職しても返済の目処が立たず、自己破産するしかない状況に追い込まれる例が後を絶たないのです。これは、日本の奨学金がじつは奨学金ではない単なる学費ローンだということもありますが、もっと大きな原因は税金が適切に使われていないからです。

 

 前記した北欧諸国では、学費は大学まで無料です。ところが、日本の大学は、国立大学ですら、考えられない額の入学金と授業料を取ります。なぜこんなことが平然と行われているのでしょうか?

 それは、たとえば東京−名古屋間を単に40分で行けるというだけのメリットしかないリニア新幹線に税金をつぎ込むというような、馬鹿げたことを政治が決めているからです。税金でまかなわれる公務員の給料が民間よりはるかに高いという、信じられないことも平然と行われています。また、地方では地方創生と称して、役にも立たない「ゆるキャラ」や「町おこし」などに税金がつぎ込まれています。そのため、国ばかりか、地方自治体のほとんどが赤字財政に陥っています。

 

 こんなことが起こっているのに、なぜ、日本が重税国家で、国民が重い税金に苦しんでいると言うと、「?」となる人が多いのでしょうか? また、メディアもこのことをほとんど取り上げないのでしょうか?

 それは、この国では税金の種類が多いうえ「見えない税

税金」もあり、さら巧妙な徴税システム(源泉徴収制度など)によって、税金の実態が庶民にわからなくなっているからでしょう。また、メディアが税金について、おざなりな報道しかしないことも原因の一つです。

 

 とにもかくにも、日本の税金はあまりに複雑で種類が多すぎます。なにしろ国や自治体に収める税金(国税、地方税)だけで、50種類以上もあります。さらに、見えない税金として、「たばこ税」「酒税」「自動車関連税」(自動車所得税、自動車重量税、軽油取引税など)「入湯税」「ゴルフ場利用税」「一時所得税」などがあります。

 

 さらに、「税」という字がつつかない「年金」や「健康保険」も、強制的に徴収されるので税金と言えるのです。また、NHKの受信料、水道料、電気料金なども一種の税金と言えます。とすると、これらの支払いだけで、給与所得者の収入の半分は消えていきます。

 しかも、これらの税金とは別に、基本的な税金である「所得税」や「住民税」は、給与所得者の場合、源泉徴収制度によって毎月給与から天引きされています。

 つまり、多くの日本人は、自分が自分の所得からいったいどれくらいの税金を払っているかわからないのです。これでは、税が軽いのか重いのか判断できないのも当然です。

 

 「国民負担率」という言葉があります。これは、国全体の収入である「国民所得」に対して、税金や健康保険料などの社会保険負担が、どれくらいの比率になっているかを表した数字です。財務省が発表している最新の数字(平成28年度=2016年度の見通し)は、43.9%となっています。そして、これを国際比較したのが、次の[図表1]です。 

この図表も財務省が発表しているもので、ここでは各国と比較するため2013年度の数値を使っています。

 

 それでは、日本の国民負担率41.6%2013年)は、ほかの国々に比べて高いのでしょうか? 

 アメリカが32.5%ですから、アメリカに比べれば高いと言えますが、イギリスが46.5%、ドイツが52.6%、ノルウェーが53.4%、スウェーデンが55.7%、フィンランドが64.3%、デンマークが68.4%ですから、日本はけっして高いとは言えません。

 しかし、前記したように日本の行政サービスの低さから言うと、高いと言うしかありません。

 

 さらに、この国民負担率には、財政赤字を加えなければ、本当の国民負担はわかりません。というのは、国の借金は将来にわたって国民の税金で支払われるからです。国民負担に財政赤字を加えたものを「潜在的国民負担率」と言い、こちらのほうが本当の負担です。

 では、日本の潜在的国民負担率はどれくらいでしょうか?

 財務省の発表によれば、2016年度の潜在的国民負担率は50.6%です。なんと、私たちは収入の半分以上を国に強制的に徴収されているのです。

  話を戻して、日本の国民負担率は、ここ半世紀ほど上がり続けています。それを示したのが[図2]です

 

  このグラフを見れば一目瞭然ですが、1970年から国民負担率は上がり続けています。いちばん上のラインが「国民負担率」で、次のラインが「租税負担率」、下のラインが「社会保障負担率」(健康保険料や年金保険料などの社会保障費の割合)ですが、租税負担率はそれほど上がっていないのに、社会保障負担率が右肩上がりで増加してきたのがわかります。


 そして、2016年の国民負担率はなんと43.9%に達して、日本はまさしく重税国家になってしまったのです。

 日本の税金のことを考えていくと、たった一つはっきりしていることがあります。それは、現在、この国は税金収入だけではまかなえていないということです。日本は毎年、性懲りもなく借金を続けており、それで国家が運営されているということです。

 つまり、この先も借金を続けていかなければ国は成り立たず、そのためには今後も増税をしていかなければならないということです。というか、そう国民が思い込まされると言ったほうがいいでしょう。

 

 なぜんら、財政規模を縮小し、政府を小さくすれば借金をしなくてもすむ道もあるからです。しかし、この国の政治家と官僚たちがそんなことをするでしょうか? 戦後の混乱期を除いて、政府がそんなことをしたことは1度もありません。国家予算は毎年増え続けているのです。

 国の借金は国債発行によって行われますが、その国債の担保は税金です。したがって、現在の政府のままで増税を止めてしまうと、最終的に財政への信認が崩れ、いずれ財政破綻するかインフレによる借金圧縮が起こるのが必至となります。

 

 ところが不思議なことに、この国には「財政破綻はありえない」とする評論家やエコノミストがいます。国の借金は、一般の借金とは違うというのです。しかも、あろうことか、「国の借金は国民の資産」とまで言う“お花畑”思考の評論家もいます。しかし、どんなに国のバランスシートを示して理屈をこねくり回そうと、借金は借金ですから、個人も企業も国も同じで、返さなくていいという理屈は成り立ちません。

 したがって、借金が増えれば増えるほど、税金は上がり続け、この先、日本は経済成長などできなくなってしまうのです。実際、もうそうなっています。日本はすでに人口減社会に突入し、毎年2030万人の人口が失われているのですから、それだけでも経済成長は無理です。人口減にともない、生産労働人口(働く人の数)もどんどん減っています。

 

 ですから乱暴に聞こえるかもしれませんが、いっそうのこと、財政破綻してしまったほうがマシなのです。もちろん、ここで言う財政破綻は、会社が倒産するようなこととは違います。日本では国債のほとんどを国内が持っているので、国債がデフォルトするような財政破綻は起こらないでしょう。起こるのは、前記したインフレによる借金圧縮です。これを「インフレ税」と言い、じつはこれも税金と考えられます。

 

 このことは本書の後半で詳述しますが、インフレ税を払うような事態になったほうが、じつは国民は負担から解放されます。そうでないと、いまですら潜在的国民負担率が5割を超えているこの国で、さらに税金は上げられ、国民の苦しみは増すばかりになります。消費税10%201910月まで先送りされましたが、そのまま10%ですむわけがありません。

 そうなったとき、私たちの暮らしがどうなってしまうかは、考えるだけで恐ろしくなります。

 

 次の[図表3]は世界借金地図です。この世界地図は、「Visual Capitalist」というサイトが掲載しているもので、国民1人当たりの借金の大きさに応じて描かれています。 この地図を見れば、日本が世界のどの国よりも大きくなっているのがわかります。なんと私たちは、1人当たり85700ドル(約900万円)の借金を背負っているのです。世界にこんな国はありません。

 日本国憲法第84条は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と定めています。

 これは、いわゆる「租税法律主義」というもので、税金はすべて法律改正によりなされるという規定です。ところが、日本の税金は、実質的に政府の「税制調査会」(内閣総理大臣の諮問機関)が官僚と結託して決めてしまい、国会は単にそれを承認するだけとなっています。つまり、国民がほとんどあずかり知らぬところで、増税は決まっていくのです。それなのに、メディアは、こうした行政の恣意的な課税から国民を守ろうという意識がほとんどありません。財務省の言うとおりに「増税しないと財政は破綻する」「福祉を維持するには増税はやもうえない」「まだ増税の余地がある」などと言っているのです。

 

 すでに、重税国家に嫌気がさして、多くの富裕層や有能なビジネスマン、起業家たちが、国を出ています。また、企業も、拠点を海外に移す例が多くなっています。

 タックスヘイブンは日本のような官僚統制国家では「悪」とされていますが、本当は、重税国家の理不尽な徴税から逃れるための「自由な地」とも言えるのです。それはお金持ちにとっても庶民にとっても同じです。タックスヘイブンはそれなりの存在意義があるのです。

 

 このまま日本が重税国家路線を突き進めば、いま以上に多くの国民が国を出ていくでしょう。富裕層や有能なビジネスマンばかりか、将来に希望が持てなくなった若者たちまで出ていくでしょう。

 本書は、日本がいかに重税国家であるかを描き、税金とはなにか? 私たちは本当にこんなに税金を払う必要があるのか?と、考えるための本です。日本はまがりなりにも「民主政体」(デモクラシー:デモクラシーを「民主主義と訳すのは間違い)の国なのですから、これ以上、私たちは、非効率な税金を払い続ける必要などないのです。

 私は根っからの「小さい政府」主義者です。つまり、できる限り、政府は小さくてよい、税金はできる限り少ないほうがよいと考えています。

 あなたは、どうお考えでしょうか? 本書を読んで、税金とこの国あり方について、改めて考えていただければ幸いです。

 20173月 筆者 

 

最終更新 2017年 3月 25日(土曜日) 03:54