2011年2月■エルネオス3月号「留学生30万人計画の破綻」 印刷
作者 junpay   
2011年 2月 25日(金曜日) 00:00

 

 ビジネス情報誌『エルネオス』3月号の記事「中国の二流、三流学生を喜ばすだけの「留学生30万人計画」は亡国政策」を以下、収録。

    

コンビ、居酒屋の中国人留学生の実態

 六本木で深夜まで営業している足裏マッサージ店で働く宗秀娥さん(仮名)は、都内の有名私立大学に通う黒龍江省出身の中国人留学生。「お店は午前3時まで。その後、帰って寝て、朝9時半から学校。午後は3時からコンビニでバイト。この店には夜8時に来ます」という生活を送っている。留学生の就業は週28時間を超えてはならないという規定があるが、「それを守っていたら、次のアメリカ留学の費用が貯められない」と言う。

 ここ、2、3年、都内ではコンビニや居酒屋で働く中国人の姿が目立つようになった。 

 その多くは、日本政府が鳴りもの入りで始めた「留学生30万人計画」で日本に来た中国人留学生である。2008年、当時の福田康夫総理はグローバル戦略の一環として「2020年までに留学生を30万人に増やす」ことを提唱、文科省は実現に向けて09年度から国の予算を投入した。海外の学生が留学しやすい環境への取組みを行う「拠点大学」を選定し、これに財政支援。審査で選ばれた東大、京大、早稲田などに、年間 2~4億円交付するとともに、留学生に奨学金を出すようになった。政府が投入した予算は年間約220億円。これを国費留学生1万人で割ると、一人当たり年間220万円。その内訳は、奨学金を学部生で月額12万5000円給付、授業料を国立大なら免除、私大なら3割限度の減免などである。

 この日本政府の政策で、中国では日本留学ブームが起きた。09年4月の留学ビザ取得率は前年同期より12%、留学希望者そのものも20%増加。日本大使館でのビザ取得率も倍増した。日本留学斡旋所も連日大盛況で、日本語学校は学生が2倍になったところもある。

 独立行政法人日本学生支援機構によると、現在、日本には約14万人の留学生がおり、うち中国人は約8万6000人で、しつに60%を超えている。次いで韓国(約5%)、台湾(約4%)、ベトナム(約2.5%)で、欧米圏はほんのわずか。「留学生30万人計画」といっても、その実態はアジア人留学生ばかり、とくに中国人のための留学制度と言っても過言ではない。

 宗秀娥さんも日本政府の奨学金で日本に来たが、「本当はアメリカに行きたかった」と言い、日本留学はそのためのステップと位置づける。中国で人気の留学先はアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアという英語圏が中心。アジアでは香港とシンガポール。日本はその次で、資金力がある富裕層の子女は日本には見向きもしない。宗秀娥さんの場合は、実家が貧しく、奨学金に頼るほかなかった。

 今年の正月、宗秀娥さんの留学生仲間は、ヤマダ電機池袋店の「初売り福袋」目当てに、元旦の夜から行列に並んだ。行列の先頭はほとんどが中国人。福袋の中身は超格安の製品で、これを彼らは中国からの観光客に転売して稼ぐ。「正月の数日で10万円も儲けた友人がいます」。

 

青森大学で発覚した大量の「ニセ留学生」

 

 中国人留学生が激増するなか、青森大学で2008~10年度に、通学実績のない中国人留学生140人を除籍処分にしていたことが発覚した。処分された学生のほとんどは入学後、青森県外に出て働いており、実態は「偽装留学」。1月14日、青森大学の末長洋一学長は会見で、「授業にまったく参加せず、アルバイトばかりしているために除籍処分にした」とし、なかには東京に出て働く者もいたと語った。

 東京の有名大学と違い、地方大学では学生数が激減して経営が悪化。その穴埋めとして、国から補助金がもらえる留学生受け入れは、恵みの雨だった。しかし、その実態はニセ学生。中国で出回っている偽造証書を日本の地方大学が見抜くのは難しい。

「留学生に青森県内のアルバイトを紹介すれば、ある程度問題を防げたかも」と末永学長は語ったが、そういう問題ではない。そもそも日本の大学が、中国人学生にまったく人気のないことのほうがより深刻な問題だ。東大、早稲田ですら、中国人学生の二番手、三番手の層か、奨学金目当ての層しか集まらない。一番手と富裕層の子女はほとんどが欧米に留学をし、それができない層しか日本にやって来ない。まして、日本の地方大学には、三番手ならまだいいほうで、ニセ学生が大量に来てしまう。

 青森大学の事件は、2002年に起こった酒田短大生不法就労事件とまったく同じ構図で、日本政府は税金をドブに捨てているようなものである。

 たとえば、「留学生30万人計画」で拠点大学に選ばれた早稲田大学は、2004年に国際教養学部を開設し、いまでは日本一留学生の多い大学になった。しかし、国際的評価はアジアでも低い。昨年9月に発表されたタイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の世界大学ランキングで200位以内に入った日本の大学は5校で、中国本土の6大学に及ばない。ちなみに、東大はアジア一位となった香港大学より低い26位、京大が57位で、早稲田は200位以内にも入っていない。

 

日本は中国の「落ちこぼれ学生」で溢れる

 

 早稲田大学国際教養学部は帰国子女が多いことでも知られるが、彼らに話を聞くと、「ICU(国際キリスト教大学)や上智よりSAT(米大学進学適性試験)が低くて入りやすい。1500点(満点は2400点)ぐらいでも入れる」と言う。アメリカの一流大学、たとえばアイビーリーグ各校は1400点は必要なので、明らかにレベルが低い。そのため、小学校から英語教育を施されている中国人学生の英語力なら、二番手、三番手の学生でも、日本人学生より英語力は上である。

 そんな学生の一人、呉善君(仮名)は、「国際教養を除いては他の学生部の日本人学生は英語で会話もできない」と嘆く。あるとき、学内アンケートで「なぜ日本に?」という質問があり、正直に「アメリカに行けなかったから」と書いたら怪訝な顔をされたという。

 学力レベル、英語力を除いても、日本の大学は留学生に魅力がない。それは「学期が4月始まりと世界とずれている」「卒業しても就職先がない」「欧米のようにオンキャンパスの寮がない」などの点だ。

 1月19日、中国の胡錦涛主席の米国公式訪問の際、ミシェル・オバマ大統領夫人は、「近年、アメリカでは、中国への留学人数が大幅に増加している。これは、夫の計画である。今後の4年間で中国に10万人の米国留学生を派遣する。この目標を実現するため、米中両国政府はより多くの留学生に奨学金を提供するなどの一連の政策を打ち出してきた」と語った。

 日本がこのまま「留学生30万人計画」を続けると、それが達成されたとき、中国人留学生の数は、現行の比率のままなら約18万人になる。日本は、中国の二流、三流の学生、悪く言うと「落ちこぼれ学生」で溢れることになる。いや、このままデフレ不況が続いていけば、奨学金を出しても来てくれなくなる可能性もないとは言えない。

 日本政府は即刻この計画を中止し、自国の大学と大学生のレベルを引き上げることに注力すべきだろう。そこに予算を使わないというのは「亡国政策」にも等しい。

 

 

最終更新 2011年 6月 04日(土曜日) 18:30